スーツには、長い歴史の中で培われてきたさまざまな「マナー」があります。
そして、そうしたマナーのなかには、ボタンに関するマナーも存在します。
この記事では、スーツのボタンに焦点を当て、覚えておきたいマナーやボタンの種類、選び方までわかりやすく解説します。

スーツのボタンマナーにおける、もっとも重要で基本的なルールが「アンボタンマナー」です。これは、ジャケットの一番下のボタンは留めない(unbutton)というマナーを指します。
ビジネスシーンで着用されるほとんどのスーツは、一番下のボタンを外すことを前提に設計されています。まずはこの大原則をしっかりと押さえましょう。
スーツの一番下のボタンを留めない理由には諸説あります。
たとえば、1900年代初頭(20世紀初頭)のイギリス国王エドワード7世に由来する説もそのひとつ。これは、恰幅(かっぷく)が良かったエドワード7世が、ベストやジャケットの一番下のボタンを留められなかったため、周囲もそれに合わせてボタンを外すようになったというもの。このほか、乗馬の際に裾さばきを良くするため、一番下のボタンを外していた名残という説もあります。
また、スーツの構造的な理由からも、アンボタンマナーは推奨されます。
現代のスーツは一番下のボタンを外した状態が最も美しく見えるよう、シルエットが設計されています。一番下のボタンまで留めてしまうと、腰回りに不自然なシワが寄り、裾(すそ)が詰まったような窮屈なシルエットになってしまいます。スーツ本来の優雅なドレープ(生地の流れ)を損なわないためにも、一番下のボタンは開けておくのは理にかなっていると言えるでしょう。
こうした歴史的・構造的な背景から、「アンボタンマナー」は一部の例外を除き、現代においても世界共通のビジネスマナーとして定着しています。
「誰も見ていないだろう」と思うかもしれませんが、知識のある人が見れば、ボタンの留め方一つで「この人はマナーを知っているな」あるいは「知らないな」と判断されてしまいます。ビジネスでの会食や重要な商談など、フォーマルさが求められる場ではとくに注意が必要です。
たかがボタン一つですが、されどボタン一つ。このルールを守るだけで、スーツの着こなしは格段に洗練されるはずです。
アンボタンマナーは現代においても世界共通のビジネスマナーとお伝えしましたが、レディーススーツには「アンボタンマナー(一番下を開ける)」のルールは基本的に適用されません。
これは、男性用スーツと異なり、女性用スーツはボタンをすべて留めた状態がもっとも美しく見えるよう設計されている場合が多いからです。ただし、レディーススーツはデザインが多様であるため、一概には言えません。ウエストラインがきれいに見える位置(例えば2つボタンのうち上だけ、など)で留めるなど、スーツのデザインや着こなしのバランスによって柔軟に判断するのが良いでしょう。
アンボタンマナーを理解したところで、次はスーツの種類別に、正しいボタンの留め方を解説します。

シングルスーツのジャケットは、礼服などに多い「1つボタン」、ビジネススーツの主流である「2つボタン」、そして「3つボタン」という3タイプに分けられます。
1つボタンの場合、ボタンを留めるのが基本。
2つボタンの場合、上のボタンを留めて、下のボタンは外しておきます。
3つボタンは、ボタンが3つ等間隔に並んでいるタイプと、ラペル(襟)の折り返し部分に一番上のボタンホールがある「段返り仕様」があります。ボタンが等間隔に3つ並んでいるタイプの場合は、真ん中のボタンのみ、あるいは上と真ん中の2つのボタンを留めて、一番下のボタンは外しておきましょう。段返り3つボタンの場合は、真ん中のボタンのみを留めます。一番上のボタンは装飾ですので、留める必要はありません。

ボタンが2列に配列されたデザインが特徴のダブルスーツは、「6つボタン」と「4つボタン」という2タイプが存在します。
どちらのタイプも、向かって右側(着用者の視点で左側)のボタンは装飾であり、実際には使用しません。
6つボタンの場合、向かって左側(着用者の視点で右側)のボタンの真ん中1つだけ、あるいは真ん中と下の2つを留めるのが基本。
4つボタンの場合、向かって左側(着用者の視点で右側)のボタンの上1つだけを留めましょう。

ジャケット、スラックスにベスト(ジレ)を加えたスリーピーススタイルは、よりフォーマルで格調高い印象を与えます。
このベストにも、専用のボタンマナーが存在します。ベスト(ジレ)もジャケット同様、一番下のボタンは留めないのが正しいマナーです。
また、ベストを着用している場合、ジャケットの前ボタンはすべて開けておいてもOKです。もちろん、ジャケットの一番下のボタン(アンボタンマナー)は開けた上で、上のボタンを留めてもマナー違反ではありません。
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スーツのボタンは、常に留めておけば良いというわけではありません。
状況に応じて適切に留めたり外したりすることで、スーツを美しく保ち、かつ相手にスマートな印象を与えることができます。
基本的に、立っているときはボタンを留め、着席時はボタンを外すのが原則です。
・立っているとき(歩行中、挨拶時など):ボタンを留める (アンボタンマナーに従い1番下のボタンは留めない)
・座っているとき(デスクワーク中、電車・車での移動中、会食中など):ボタンを外す
座る時にボタンを外すのは、単に「楽だから」という理由だけではありません。
シルエットの崩れを防ぐため ボタンを留めたまま座ると、腹部や腰回りに圧力がかかり、ジャケットが不自然に突っ張り、見苦しいシワが寄ってしまいます。
スーツを傷めないため 生地に余計なテンションがかかることで、ボタンが取れやすくなったり、生地が伸びたり、型崩れの原因になったりします。
大切なスーツを長持ちさせるためにも、座る際は必ずボタンを外す習慣をつけましょう。
ビジネスシーンにおいては、アンボタンマナーを守りつつジャケットのボタンを留めておき、着席時はボタンを外すのが基本。
とくに、客先への訪問先や重要な商談時は、しっかりとボタンマナーを意識することが大切です。
反対に、オフィスでの勤務中で、なおかつカジュアルが許容される環境であれば、ボタンを外していても問題ない場合がほとんどです。
就職活動や転職の面接は、第一印象が非常に重要です。
基本はビジネスマナーと同じように、立っている時はボタンを留め、着席時に外します。
面接の際は、ノックして入室し、挨拶(お辞儀)をし、椅子の横に立つまではボタンを留めておきます。面接官から「どうぞお座りください」と促されたら、「失礼します」と一礼した後、座る直前にボタンを外しましょう。面接官から終了の合図があったら、席の横で立ち上がり、ボタンを留めてから「ありがとうございました」とお辞儀をして退室します。
面接官は、服装の清潔感だけでなく、こうした細かな所作も見ている場合があります。
冠婚葬祭の場では、マナーがより厳格に問われます。
・結婚式(慶事):基本のアンボタンマナーは同様です。スリーピースを着用する場合も、ベストの一番下は開けます。 乾杯やスピーチなどで起立する際は、必ずボタンを留め直しましょう。
・葬式(弔事):基本的なマナーはビジネスシーンと同じですが、厳粛な場であるため、より一層の配慮が必要です。座っている時以外は、必ずボタンを留めます。

ここまではスーツのボタンマナーについて紹介してきましたが、ここでは一歩踏み込んで、ボタンの種類や選び方について見ていきましょう。
スーツのボタンは単なる「留め具」として役割だけでなく、スーツ全体の印象を左右する重要なアクセサリーでもあります。
とくに、オーダースーツやセミオーダースーツを作る際の楽しみの一つがボタン選びです。生地との相性をテーラー(仕立て屋)と相談しながら、自分だけの組み合わせを見つけるのも良いでしょう。
スーツに使われるボタンには、さまざまな素材があります。それぞれの特徴を知ることで、スーツ選びやオーダースーツの際に役立ちます。
・水牛ボタン:天然素材ならではの高級感と深みのある色合いが特徴で、一つひとつ模様が異なります。主に、高級スーツやオーダースーツで用いられるボタンです。
・ナットボタン:ヤシの実の種が原料で、木目調の温かみがあり、経年変化も楽しめる。カジュアル寄りなスーツやコットンスーツに用いられることが多いボタンです。
・貝ボタン:高瀬貝や黒蝶貝などを加工したボタンで、独特の光沢と高級感が特徴。夏物スーツやフォーマルスーツなどに用いられることが多いです。
・メタルボタン:金属製のボタンで、生地とのコントラスト・メリハリが楽しめます。主にブレザーなどに用いられます。
・練り・プラスチック:ポリエステル樹脂などで作られたボタンで、安価で加工しやすく、色柄が豊富。既製品スーツやリクルートスーツをはじめ、さまざまなスーツに用いられます。
ボタンの色は、スーツ生地の色と合わせるのが基本です。
たとえば、ネイビースーツには、ネイビーやブラック、濃いブラウンのボタン。グレースーツには、グレーやブラックのボタンといった具合に、同系色やトーンが近い色を選ぶと失敗しにくいと言えます。
反対に、生地とのコントラストを楽しむ方法もあります。
たとえば、ネイビーの生地に、あえて明るいブラウンのナットボタンを合わせて軽快さを出したり、チャコールグレーの記事に、光沢のある黒の水牛ボタンで重厚感を出したり、といった具合です。
ジャケットの袖についている「袖ボタン」にも種類があります。
・開き見せ(あきみせ):ボタンホールは飾りで、実際には開かない仕様。既製品スーツのほとんどがこれにあたります。
・本切羽(ほんせっぱ):ボタンホールが実際に開いており、ボタンの開閉が可能な仕様。オーダースーツや高級既製服に見られます。
「本切羽」の場合、あえて一番下のボタンを一つ外して着こなすことで、「オーダーメイドであること」をさりげなくアピールする上級テクニックもあります。ただし、ビジネスシーンではすべてのボタンを留めておくのが無難です。
また、袖ボタンの並び方には一般的な「並び」のほか、ボタン同士を重ねながら並べる「重ね」の2パターンが存在します。オーダーでスーツを作るのであれば、袖ボタンの並び方についてもこだわってみるとよいでしょう。
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今回は、スーツのボタンに焦点を当てて、基本的なマナーや留め方・外し方、種類や選び方について紹介しました。
スーツ・紳士服のはるやまでは、数多くのスーツを取り扱っており、ボタンの仕様も豊富です。ビジネス用や冠婚葬祭用、プライベートのおしゃれ用としてスーツをお求めの方は、ぜひはるやま公式オンラインストアをチェックしてみてください。
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