結婚式や厳かな式典で見かける、特徴的なデザインの礼服。それが「モーニングコート」です。
男性のフォーマルウェアで最上級の格式を持ちますが、着用機会が少ないため「いつ着るのか」「タキシードとの違いは?」「必要な小物は?」といった疑問も多いでしょう。
この記事では、モーニングコート(モーニングスーツ)の基本から、シーン別の着こなしマナー、準備方法まで解説します。
まずは基礎知識として、モーニングコートの意味や起源、そのほかのフォーマルウェア・スーツとの違いについて確認していきましょう。
モーニングコートとは、男性の昼間の服装においてもっとも格式が高い「正礼装(せいれいそう)」です。
独特のデザインと厳格なルールがあり、着用する人の品格と、場への深い敬意を示します。一般的に、「モーニング」や「モーニングスーツ」とも呼ばれますが、これらは「モーニングコート」を中心とした一式の服装を指します。
・モーニングコート(黒のジャケット)
・ベスト(ウエストコート)
・コールパンツ(縞柄のスラックス)
最大の特徴は、ジャケット(コート)のデザインです。前裾はウエストでカットされ、後ろ裾にかけて曲線的(カッタウェイ)に長く伸び、エレガントなシルエットを描きます。
モーニングコートのルーツは、19世紀の英国にあるとされています。
当時の昼の正礼装は、前後ともに裾が長い「フロックコート」でした。しかし、朝の乗馬の際に前裾が邪魔になるため、斜めにカットしたデザインが考案されます。
これが「モーニングコート」の原型であり、当初は略式の乗馬服でしたが、次第に昼間の公式な場で着用されるようになり、最上級の正礼装として定着したと言われています。

男性用の礼服には、モーニングコート以外にも「燕尾服(えんびふく)」や「タキシード」、「ディレクターズスーツ」などの種類があります。
これらの主な違いは、「格式」と「着用する時間帯」です。
・モーニングコート:昼間の正礼装
・燕尾服(テールコート):夜間の正礼装
・ディレクターズスーツ:昼間の準礼装
・タキシード:夜間の準礼装
礼服のなかで、もっとも格式が高いのが、正礼装に分類されるモーニングコートと燕尾服(テールコート)です。昼間に着用するのであればモーニングコート、夜間に着用するなら燕尾服(テールコート)が適切です。
正礼装に次いで格式高いのが、準礼装であるディレクターズスーツやタキシードです。ディレクターズスーツは昼間、タキシードは夕方以降に着用します。近年ではタキシードを正礼装に分類するケースもあります。
なお、ブラックスーツやダークスーツは、準礼装の下に位置づけられる略礼装に該当します。
ここまでお伝えした通り、モーニングコートは「昼間の正礼装」です。
国際的なプロトコル(儀礼上のルール)では、着用は日の出から日没まで(一般的に18時頃まで)と定められています。夜の式典では、夜の正礼装である燕尾服、または準礼装のタキシードを着用するのが正式です。
また、モーニングコートは高い格式ゆえに着用シーンが限定されます。慶事・弔事それぞれの具体的なシーンを見ていきましょう。
お祝いの場では、主に「主催者側」や「主賓」といった、式典において中心的な役割を担う人が着用します。
もっとも身近な例は結婚式・披露宴で、新郎のほか、新郎新婦の父親や媒酌人(主賓格)が着用します。また、叙勲・褒章の親授式や伝達式(とくに皇居での親授式では必須とされます)や、記念式典、竣工式といった公式な式典・行事において、主催者や来賓代表が着用するのも正式なマナーです。
そのほか、学校の入学式や卒業式で校長や学長など教職員の代表者が着用するケースや、園遊会、格式高いパーティーで主催者や主賓が着用する場合もあります。
モーニングコートは、弔事(葬儀・告別式)においても「正喪服」として着用されます。ただし、着用が許されるのは故人と非常に近しい立場の方のみです。
具体的には、葬儀・告別式における喪主、および故人から三親等までの近親者(遺族)がこれにあたります。また、お別れの会や偲ぶ会などを開く場合も、主催者側(遺族や実行委員長など)が正喪服として着用します。
注意点として、一般の参列者が弔事でモーニングコートを着用することはマナー違反にあたります。一般参列者は、準喪服(ブラックスーツ)を着用するのが基本です。また、通夜でモーニングコートを着用することはありません。

モーニングコートは着こなしにも厳格なルールがあります。とくに、お祝いの席(慶事)とお悔やみの席(弔事)では、着こなしがまったく異なります。
では、モーニングコートの基本的な着こなしと、慶事・弔事における着こなしを見ていきましょう。
まず、慶事・弔事を問わず共通する、モーニングコートの基本的な構成アイテムです。
・ジャケット: 黒のモーニングコートを着用します。衿はピークドラペル(剣衿)が正式です。
・スラックス: 「コールパンツ」と呼ばれる黒とグレー(または白)の縞柄パンツを合わせます。裾は「シングル」仕上げのみです。
・サスペンダー: スラックスはベルトでなくサスペンダーで吊るすのがルールであり、必須アイテムです。
・靴: 黒の革靴で、「内羽根式のストレートチップ」を着用します。
・靴下: 黒の無地ロングホーズ(膝下丈の靴下)を着用します。座った時に素肌が見えないようにするためです。
なお、モーニングコートは後ろの裾(テール)が長いため、そのまま座ると裾がシワになったり、汚れたりしてしまいます。
椅子に座る際は、両手でジャケットの裾を軽く持ち上げ、左右に分けてから、お尻に敷かないようにゆっくりと腰掛けます。この一連の動作を「裾をさばく」と言い、流れるように行うと非常に優雅に見えます。
結婚式や式典など、お祝いの場で着用するスタイルです。華やかさと品格が求められます。
・ベスト(ウエストコート): シルバーグレーの無地が最も一般的です。ジャケットと共布(黒)も可能ですが、その際は「白襟(しろえり)」を付けるのがマナーです。
・シャツ: 白無地のブロード生地。「ウィングカラー(立ち襟)」がもっともフォーマルですが、「レギュラーカラー」でも問題ありません。
・ネクタイ: シルバーグレーや白黒の縞柄(レガッタストライプ)が基本です。シルバー無地やアスコットタイも着用されます。
・ポケットチーフ: 白の麻(リネン)素材を、「スリーピークス」(3つの山形)の折り方で挿すのが正式です。
・カフス: 白蝶貝や真珠など、白系の石を使ったものを使用します。
・手袋: 白またはグレーの布製か革製のものを用意します。ただし基本的には着用せず、「右手に持つ」のがマナーです。
・サスペンダーの色: 白黒の縞柄か黒、白の無地が使われます。
なお慶事では、モーニングコートのフロントボタンは、内側にある「拝みボタン(リンクボタン)」で留めます。これにより、前裾が左右対称に美しく開きます。
喪主として葬儀・告別式で着用するスタイルであり、慶事とは着こなしが明確に異なります。
・ベスト(ウエストコート): 必ず「黒」の共布を着用します。慶事で使う「白襟」も付けません。
・シャツ: 白無地のレギュラーカラーシャツを着用します。慶事で用いるウィングカラーは弔事では使用しません。
・ネクタイ: 「黒」の無地(結び下げ)を締めます。光沢のない素材を選びます。
・ポケットチーフ: 原則として挿しません。
・カフス: 原則使用しません。シャツの仕様でやむを得ず必要な場合は、黒曜石など光沢のない黒い石のものを使用します。
・手袋: 原則として不要です。
・サスペンダーの色: 黒の無地を使用します。
弔事においては、モーニングコートの拝みボタンは使わず、通常のスーツ同様に、外側のボタンをボタンホールに通して留めるのがマナーです。

モーニングコートが必要な場合、主な準備方法として「レンタル」と「購入(オーダー含む)」の2つが選択肢となります。
一般的にはレンタルで用意することが多く、以下のような方はレンタルが適しています。
・着用する機会が少ない人
・保管や手入れの手間をかけたくない人
・できるだけ費用を抑えたい人
最近は必要な小物がすべて揃うレンタルプランも多く、手軽に準備できるのが魅力です。
一方、モーニングコートの購入がおすすめな人は次のような方です。
・校長や企業の役員など、式典で着用する機会が複数回ある人
・レンタルではサイズが合わない人
・自分だけの特別な一着や、本物の着心地を求める人
とくに、オーダーであれば、生地からこだわり、身体にフィットする一着が手に入ります。

最後に、モーニングコートに関するよくある質問とその回答について見ていきましょう。
A. 厳密には夏用とスリーシーズン用がありますが、空調設備が整った屋内での着用がほとんどのため、通年(オールシーズン)対応の生地が主流です。レンタル品も多くが通年用です。
A. いいえ、マナー違反ではありません。
慶事であっても、上品な白無地のレギュラーカラーシャツを合わせても全く問題ありません。落ち着いた印象になります。ただし、弔事(葬儀)ではウィングカラーは避け、必ずレギュラーカラーを選んでください。
A. デリケートな礼服ですので、クリーニングは専門店に相談しましょう。
保管は、着用後にブラッシングし、厚みのある専用ハンガーにかけて、湿気が少なく風通しの良い暗所で保管します。コールパンツも吊るして保管するのが理想です。
今回は、モーニングコートについて解説してきました。
スーツ・紳士服のはるやまでは、ビジネススーツだけでなく、フォーマルウェアも種類豊富に取り扱っています。
フォーマルウェアをお求めの方は、ぜひはるやま公式オンラインストアをチェックしてみてください。
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